数学が苦手でもわかる!AIがデータ分析で最初にすること:度数分布表とヒストグラム入門
AIが大量データを理解する第一歩:データの「姿」を見る基本とは
AIが私たちのビジネスに役立つ場面が増えています。顧客の購買予測、製品の需要予測、業務効率化の提案など、AIは大量のデータを分析し、その中に隠されたパターンや傾向を見つけ出してくれます。
しかし、AIがどのようにして、ただの数値の羅列である大量のデータから意味を読み取るのか、疑問に思われたことはありませんか?その裏側には、統計学の考え方があります。
AIが高度な分析や予測を行う前に、必ずと言っていいほど行う最初のステップがあります。それは、データの「姿」を見る、つまりデータの全体像や特徴を掴むことです。人間が初めて会う人の印象を掴むように、AIもまずデータを「見る」ことから始めます。
この記事では、AIがデータを理解するための基本的な手法である「度数分布表」と「ヒストグラム」について、難しい数式を使わずに、その考え方とビジネスでの活用イメージを分かりやすく解説します。「数学は苦手」という方でも大丈夫です。この記事を通じて、AIのデータ分析の基礎にある考え方に触れてみましょう。
なぜデータを「見る」ことが重要なのか?
ビジネスで扱うデータは、売上データ、顧客データ、生産データなど、非常に多岐にわたり、その量も膨大です。これらのデータをただ眺めるだけでは、そこから何か有益な情報を見つけ出すことは困難です。
例えば、ある商品の月間売上データが100件あったとします。その平均値を計算することは簡単です。しかし、平均値だけでは、売上が特定の時期に集中しているのか、それとも満遍なく売れているのか、あるいは極端に売上が高い日や低い日があるのか、といった詳しい状況は分かりません。
このように、データの全体像や傾向、ばらつき、偏りなどを把握することは、その後のより深い分析や、AIによる予測・分類の精度を高める上で不可欠です。データにどのような特徴があるかを理解することで、どのようなAIの手法を選ぶべきか、あるいはデータをどのように前処理すれば良いのかといった判断ができるようになります。
データの「姿」を整理する:度数分布表
大量のデータを整理し、その姿を把握するための最初のステップが「度数分布表」を作成することです。度数分布表は、データを一定の区間(「階級」と呼びます)に分け、それぞれの区間にいくつのデータが含まれているか(「度数」と呼びます)をまとめた表です。
例えば、社内アンケートで従業員の通勤時間を集計したデータを考えてみましょう。単に全員の通勤時間のリストを見ても、全体の傾向は掴みにくいです。そこで、以下のように度数分布表を作成してみます。
| 通勤時間(階級) | 人数(度数) | | :--------------- | :----------- | | 0分以上~15分未満 | 25人 | | 15分以上~30分未満 | 40人 | | 30分以上~45分未満 | 20人 | | 45分以上~60分未満 | 10人 | | 60分以上~ | 5人 |
この表を見ると、通勤時間が15分以上30分未満の従業員が最も多いことが一目で分かります。また、全体の約半数以上が30分未満で通勤していることや、1時間以上かけて通勤している人が少数いることも把握できます。
このように、度数分布表は大量のデータを階級ごとに集計することで、データの分布状況を分かりやすく示す役割を果たします。これは、AIがデータを学習する前に、人間がデータセットの基本的な特徴を理解するための重要な手段となります。
データの「姿」を絵にする:ヒストグラム
度数分布表でデータの集計ができたら、次はその情報を視覚的に捉えやすくするために「ヒストグラム」を作成します。ヒストグラムは、度数分布表を棒グラフのような形で表現したものです。
横軸にデータの階級を、縦軸にその階級に属するデータの度数を取って、棒グラフを描きます。ただし、一般的な棒グラフと異なり、ヒストグラムでは棒と棒の間隔を空けずに描くのが特徴です。これは、データが連続的な数値であることを示しています。
先ほどの通勤時間の度数分布表をヒストグラムにすると、以下のようになります(ここではイメージ図として捉えてください)。
人数 (度数)
▲
│
40┤ ■
│ ■
30┤ ■
│ ■
20┤ ■ ■ ■
│ ■ ■ ■
10┤ ■ ■ ■ ■
│ ■ ■ ■ ■ ■
0└───────────────────▶ 通勤時間 (階級)
0-15 15-30 30-45 45-60 60-
このヒストグラムを見ると、通勤時間が15分から30分の区間に最も多くのデータが集中しており、そこから離れるにつれてデータの数が減っていく様子が、絵として直感的に理解できます。
ヒストグラムは、データの「分布の形」を捉えるのに非常に優れています。データの山がどこにあるか、山が一つか複数か、左右対称か歪んでいるか、極端に離れたデータ(外れ値の可能性)があるかなどを視覚的に確認できます。
例えば、売上データのヒストグラムが特定の月にだけ高い山を示していたら、その月に何か特別な要因(キャンペーン実施など)があったことが推測できます。また、顧客の年齢分布が二つの山を持っていたら、異なる年齢層の顧客が混ざっている可能性があり、それぞれに合わせたマーケティング戦略が必要だと気づくかもしれません。
AIは度数分布表・ヒストグラムをどう使うのか?
AI、特に機械学習モデルがデータを分析・学習する過程で、直接的に度数分布表やヒストグラムを「見る」わけではありません。しかし、これらの手法が明らかにする「データの姿」は、AIによる分析の質に大きく影響します。
AI開発者は、データをAIに学習させる前に、度数分布表やヒストグラムなどを使ってデータを詳細に調べます(これを「探索的データ分析(EDA)」と呼びます)。この分析を通じて、以下のようないくつかの重要な情報を得ます。
- データの中心とばらつきの把握: データがどのあたりの値に集まっているか、どの程度散らばっているか(これは以前の記事で解説した平均値や分散といった代表値・ばらつきの指標とも関連します)。
- 分布の形の確認: データが左右対称な「正規分布」に近い形をしているか、あるいは特定の方向に偏っているかなどを確認します。データの分布の形によって、その後の統計的手法やAIモデルの選択が変わることがあります。
- 外れ値の発見: 他のデータから極端に離れた値がないかを確認します。外れ値は分析結果に大きな影響を与えることがあるため、その原因を調べたり、適切に処理したりする必要があります。
- 複数のグループの存在示唆: ヒストグラムに複数の山がある場合、データの中に異なる性質を持つサブグループが含まれている可能性を示唆します。例えば、製品の利用時間が初心者と熟練者で大きく異なる場合などです。
これらの情報に基づいて、データの前処理方法を決めたり、分析に使うAIモデルを選んだり、あるいはビジネス上の仮説を立てたりします。つまり、度数分布表やヒストグラムは、AIが賢くデータを分析するための、人間による準備段階で非常に役立つツールなのです。
ビジネスの現場でも、ExcelやBIツールのグラフ機能を使えば、簡単にヒストグラムを作成できます。AI担当者から提供された分析結果を見るだけでなく、自分自身で手持ちのデータをヒストグラムにしてみることで、AIがデータから何を見つけようとしているのか、より深く理解できるようになるでしょう。
まとめ:データの「姿」を知ることがAI活用の第一歩
この記事では、AIが大量データを理解するための基本的な手法として、度数分布表とヒストグラムをご紹介しました。
- 度数分布表: データを階級に分けて集計し、分布の様子を整理する表
- ヒストグラム: 度数分布表をグラフ化し、データの分布の形を視覚的に捉える図
これらのツールは、難しい数学の知識がなくても、手持ちのデータがどのような特徴を持っているのか、どこに偏りがあるのか、といった「データの姿」を掴むための非常に有効な手段です。
AIが高度な分析や予測を行う前には、必ずデータの基本的な性質を理解するステップがあります。度数分布表やヒストグラムは、その理解を助け、AIによる分析の方向性を定めたり、結果を正しく解釈したりするために不可欠なツールと言えます。
ビジネスの現場でデータに基づいた意思決定を行う際や、AIの分析結果を評価する際にも、データの基本的な見方を知っていることは大きな強みになります。ぜひ、ご自身の身近なデータを使って、度数分布表やヒストグラムを作成し、データの「姿」を見てみることから始めてみてはいかがでしょうか。数学への苦手意識を乗り越え、AI活用への理解を深めるための一歩となるはずです。