数学が苦手でもわかる!AIがデータから「ルール」を見つける仕組み:決定木入門
はじめに:AIの「判断」ってどうやって生まれるの?
AIがデータ分析をして、何かを「予測」したり「判断」したりする様子は、まるで魔法のように見えるかもしれません。しかし、その裏側には、データから一定の「ルール」を見つけ出すための仕組みがあります。
ビジネスでAIを活用する立場として、AIの出す結果だけでなく、「なぜそう判断したのか?」の根拠を知りたい、と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。専門的な数式は避けたいけれど、AIの考え方の基礎だけでも理解しておきたい。
この課題に応えるため、この記事では、AIがデータから「ルール」を見つける一例として、「決定木(けっていぎ)」という仕組みをご紹介します。決定木は、比較的シンプルでありながら、AIがどのようにデータを見て、段階的に判断を下していくのかを理解するのに役立つモデルです。難しい数式は使いません。統計的な考え方が、どのようにAIの「判断基準作り」に活かされているのかを、概念的に見ていきましょう。
決定木とは何か?質問に答えていくAIモデル
決定木は、その名の通り、木のような枝分かれした構造を持つAIモデルです。何かの判断を下す際に、いくつかの「質問」を順番に行い、その答えに応じて進む道を決め、最終的な結論にたどり着きます。
例えば、「この顧客は来年も契約を継続するか?」を予測する決定木を考えてみましょう。
- 最初の質問:「過去1年間にサービスを使った頻度は多いか?」
- 「はい」の場合:次の質問へ進む。
- 「いいえ」の場合:おそらく来年は契約しないだろう、と判断する(あるいは別の質問へ進む)。
- 「はい」と答えた顧客に対する次の質問:「問い合わせサポートを利用したことはあるか?」
- 「はい」の場合:サービスに積極的に関わっている可能性がある、契約継続しそうだ、と判断する。
- 「いいえ」の場合:利用頻度は高いがサポートは使わないのか...別の質問へ進む。
このように、いくつかの質問(データの特定の項目に関する条件)を順にたどりながら、最終的な予測や判断(例:契約継続、契約終了)に到達するのが決定木です。まるで、人間が何かを決める際に、頭の中で条件分けをしていくプロセスに似ていますね。
AIはなぜ、その「質問」を選ぶのか?統計的な考え方
では、決定木を作るAIは、なぜ特定の質問を、特定の順番で選ぶのでしょうか?たくさんあるデータの項目の中から、どの項目(質問)を最初に使い、どのような基準でデータを分ければ、効率的に目的の答え(例:契約継続/終了)にたどり着けるのでしょうか?
ここに、統計的な考え方が活かされています。
AIは、データ全体を見て、どの「質問」(どのデータの項目、どの値で区切るか)を使えば、目的とする結果(例えば「契約継続する人」と「契約終了する人」)が最もきれいに分かれるかを探します。
たとえるなら、果物を「りんご」と「みかん」に仕分けたい状況を想像してください。
- 最初の質問:「色は赤いか?」
- 「はい」→ りんごの可能性が高い
- 「いいえ」→ みかんの可能性が高い この質問は、りんごとみかんを分けるのに非常に有効です。
- 別の質問:「形は丸いか?」
- 「はい」→ りんごかもしれないし、みかんかもしれない。 この質問だけでは、まだ両者が混ざり合っています。
AIは、最初の質問として、「色」のように、データを分けた後のグループで、目的とする結果(りんご/みかん)がより「まとまりやすく」なるような質問を選びます。統計の世界では、この「まとまり具合」や「混ざり具合」を表す指標があります(例えば、不純度と呼ばれる概念が使われますが、数式は気にしないでください)。AIは、この不純度が最も低くなる(つまり、データが最もきれいに分かれる)ような質問と分割基準を探し出すのです。
このプロセスを、さらに枝分かれした各グループで繰り返していきます。最もデータを効率的に分類できる質問を次々と見つけ出し、木構造を完成させていくのです。
ビジネスにおける決定木と統計的判断のメリット
決定木モデルは、その構造が目に見えるため、AIの判断プロセスを比較的理解しやすいという大きな利点があります。
- 判断根拠の明確化: AIが「なぜこの顧客は契約を終了すると予測したのか?」を知りたいとき、決定木のルートをたどれば、「利用頻度が低く、サポート利用経験がないため」といった具体的な理由を確認できます。これは、特に説明責任が求められるビジネスシーンで役立ちます。
- 示唆の発見: 決定木で最初に選ばれる質問は、目的の結果(例:顧客の離脱)に最も強く関連している特徴量(データの項目)であることが多いです。これにより、「利用頻度」や「サポート利用の有無」といった項目が、顧客の離脱を予測する上で非常に重要であることが統計的に示唆されます。これは、サービス改善やマーケティング戦略を考える上での貴重なヒントとなります。
- ビジネスルールの構築: 決定木から得られた「ルール」(例:「利用頻度が低く」かつ「サポート利用がない」顧客は離脱しやすい)は、そのまま現場の担当者が意思決定に使える簡潔なルールとして活用できる場合があります。
このように、決定木を通じて、AIがデータから「どの情報が重要か」「どのように条件を組み合わせればうまく分類できるか」を統計的な考え方に基づいて学習し、判断ルールを構築する仕組みの一端が見えてきます。
まとめ:AIの「ルール作り」には統計の考え方が息づいている
この記事では、AIモデルの一つである決定木を例に、AIがデータから「ルール」を見つけ出すプロセスに統計的な考え方がどのように関わっているかをご紹介しました。
AIは、データの中から、目的の結果を最も効率的に分離できるような「質問」や「基準」を統計的な指標を使って見つけ出します。それは、データを分けた後のグループの「まとまり具合」が最も良くなるように、最適な分割点を探す作業と言えます。
決定木は比較的シンプルなモデルですが、このようなデータに基づいた「最適な分割」や「重要な情報の選択」という統計的な考え方は、他の多くの複雑なAIモデルにも共通する重要な基礎概念です。
AIの出す結果をただ受け入れるだけでなく、その背後にあるデータ分析の考え方や、統計的なアプローチの一端を理解することで、AIをより賢く、そしてより効果的にビジネスで活用できるようになるでしょう。難しい数式を全て理解する必要はありません。概念として、AIがデータから何を学び取ろうとしているのか、その大まかな方向性を掴むことが、AIとの付き合い方の第一歩となります。
これからも、AIの仕組みを支える数学や統計の基礎を、やさしく解説していきます。