数学が苦手でもわかる!AIを理解するための代表値入門(平均・中央値・最頻値)
AIと数学、その「壁」を越える第一歩:代表値とは?
AI(人工知能)のビジネス活用が広がるにつれて、「AIの仕組みを理解したい」「データをもっと活用したい」とお考えの方も多いのではないでしょうか。しかし、そこで立ちはだかるのが「数学」への苦手意識かもしれません。「なんだか難しそう」「数式がいっぱい出てきそう」と感じるのも無理はありません。
でも、ご安心ください。「やさしいAI数学」では、AIを理解するために必要な数学(特に統計)の基礎を、数式に頼らず、概念的に分かりやすく解説します。すべての数学を学ぶ必要はありません。AIがデータを扱う上で土台となる、いくつかの基本的な考え方を理解するだけで、AIがやっていることのイメージが掴みやすくなります。
この記事で最初に取り上げるのは、統計の最も基本的な考え方の一つである「代表値」です。代表値とは、たくさんのデータの中から、そのデータセット全体を代表する一つの値を求める方法です。平均、中央値、最頻値といった言葉は、きっと皆さんも一度は耳にしたことがあるはずです。
これらの代表値がなぜ重要なのか、それぞれどのような特徴があるのか、そしてそれがAIやデータ分析の考え方とどう繋がるのかを、一緒に見ていきましょう。難しい計算は一切ありません。データの全体像を掴むための基本的な考え方を身につけることが、AI理解へのやさしい第一歩となります。
データ分析の基本「代表値」を理解する
たくさんのデータがあるとき、その全体像をパッと把握するのは難しいものです。例えば、100人分のテストの点数リストを見ても、一人ひとりの点数は分かっても、「クラス全体の成績はどうだったか?」を知るには、何か「代表する数字」が欲しくなります。
代表値は、まさにこのような場合に、データセットの特徴を一つの数値でギュッと要約してくれる便利な道具です。主な代表値として、平均値、中央値、最頻値があります。それぞれデータのどこに「中心」があるかを示しますが、焦点を当てる点が異なります。
1. 平均値:おなじみの「ならし」の値
平均値は、最も一般的で、皆さんも普段からよく使っている代表値でしょう。
考え方: データに含まれる全ての値を合計し、そのデータの個数で割った値です。「ならす」というイメージが近いかもしれません。例えば、3日間の売上がそれぞれ10万円、15万円、20万円だった場合、合計は45万円です。これを3日(個数)で割ると、平均売上は15万円となります。
メリット: * 計算方法が分かりやすく、全てのデータが計算に使われるため、データ全体の情報を含んでいます。
デメリット: * 外れ値(極端に大きい、あるいは小さい値)の影響を非常に強く受けます。 例えば、上記の売上データに、1日だけ100万円という日があったとします(10万円, 15万円, 20万円, 100万円)。合計は145万円となり、4日で割ると平均は約36.25万円になります。他の3日は10万円台~20万円台なのに、平均値だけ見ると「平均36万円も売れているのか!」と誤解してしまう可能性があります。
ビジネスでの活用例: * 平均売上、平均顧客単価、平均通勤時間など、日常的なデータ分析で最も頻繁に使われます。 * データセットの一般的な傾向を把握するのに適しています。
2. 中央値:外れ値に強い「真ん中」の値
中央値は、データを小さい順(または大きい順)に並べたときに、ちょうど真ん中に来る値です。
考え方: 例えば、5人のテストの点数が「30点、50点、70点、80点、90点」だったとします。これを小さい順に並べると「30, 50, 70, 80, 90」となります。この真ん中の値は70点です。これが中央値です。データの個数が偶数の場合は、真ん中に来る2つの値の平均を使います。
メリット: * 外れ値の影響を受けにくいという大きな特徴があります。先ほどの売上の例(10万円, 15万円, 20万円, 100万円)を小さい順に並べると「10, 15, 20, 100」です。この真ん中の2つの値(15と20)の平均は17.5万円となります。平均値の36.25万円と比べて、外れ値の100万円に引っ張られていないことが分かります。
デメリット: * データの並び順に依存するため、データ全体のばらつき具合を反映しにくい場合があります。
ビジネスでの活用例: * 所得の中央値、不動産価格の中央値など、特に極端な値(一部の超高額所得者や超高額物件など)が存在するデータセットで、より「実態に近い」中心の値を示したい場合によく使われます。
3. 最頻値:最も多い「代表的な」値
最頻値は、データの中で最も頻繁に登場する値です。
考え方: 例えば、アンケートで「好きなフルーツ」を尋ねた結果、「リンゴ、バナナ、バナナ、オレンジ、リンゴ、ブドウ、バナナ」だったとします。このデータの中で最も多く出てくるのは「バナナ」です。これが最頻値です。数値データだけでなく、このように順序のない「カテゴリデータ」(名義尺度とも呼ばれます)にも使えるのが特徴です。
メリット: * 数値データだけでなく、カテゴリデータにも適用できます。 * 最も「典型的な」パターンや選択肢を知るのに役立ちます。
デメリット: * データに重複する値があまりない場合や、複数の値が同数で最も多い場合など、最頻値が明確でなかったり、データ全体を代表しない場合があります。
ビジネスでの活用例: * 最も売れている商品のサイズや色、アンケートで最も多い回答、顧客が最もよく利用する支払い方法など、具体的な「多数派」を知りたい場合に有効です。
代表値とAI:データ理解の土台
AI、特にデータを学習して賢くなる機械学習モデルは、膨大なデータを扱います。AIがデータを正しく学習し、適切な判断や予測を行うためには、まずデータを理解する必要があります。
代表値は、まさにこの「データ理解」の初期段階で非常に重要な役割を果たします。
- データの傾向把握: 学習に使うデータがどのような傾向を持っているのか(平均的な値はどのくらいか、外れ値は含まれているか、最も一般的なパターンは何かなど)を把握するために代表値が使われます。これにより、データの「クセ」を知り、適切な前処理を行ったり、どのAIモデルを使うかを検討したりする手がかりが得られます。
- モデルの評価: AIモデルが何かを予測したり分類したりした結果のデータセットに対しても、代表値を計算することがあります。例えば、予測誤差の平均や中央値を見ることで、モデルの予測精度全体を把握することができます。
- 異常検知: 平均から大きく外れた値(外れ値)は、システムの異常や不正行為の兆候である可能性があります。代表値を用いてデータの通常の範囲を定義し、そこから逸脱するものを検知する手法があります。
このように、代表値そのものがAIモデルの「中身」を直接構成するわけではありませんが、AIがデータを扱い、学習し、評価する過程において、データの性質を理解するための基本的なツールとして広く活用されています。
まとめ:数学への苦手意識を乗り越える一歩
この記事では、AIを理解するための基礎となる統計概念の中から、「代表値」(平均値、中央値、最頻値)を、数式を使わずに概念的に解説しました。
- 平均値: 全てのデータを「ならした」値。外れ値に弱いがお馴染みの指標。
- 中央値: データを並べたときの「真ん中」の値。外れ値に強い。
- 最頻値: 最も「頻繁に」出てくる値。カテゴリデータにも使える。
それぞれに得意・不得意があり、分析の目的やデータの種類に応じて使い分けることが重要です。そして、これらの基本的な統計概念は、AIがデータを理解し、分析する上で欠かせない土台となっています。
数学への苦手意識があっても、こうした基本的な概念を一つずつ理解していくことで、AIがどのようにデータから学び、なぜそのような判断をするのか、その背景にある考え方が少しずつ見えてきます。
難解な数式に圧倒される必要はありません。まずは身近なデータやビジネスの状況を思い浮かべながら、これらの代表値が持つ意味や役割をイメージしてみてください。
「やさしいAI数学」では、これからもAIに必要な数学の基礎を、分かりやすく、そしてビジネスの視点を交えながらお届けしていきます。次回は、データの「ばらつき」を示す指標について解説する予定です。