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数学が苦手でもわかる!AIの予測がどれだけ確かかを知る:点推定と区間推定とは

Tags: 統計, AI, データ分析, 予測, 点推定, 区間推定

AIが出す「予測値」だけを見ていませんか?

AIは、過去のデータから未来の出来事や未知の値を予測することに長けています。例えば、「明日の最高気温は25度です」「来月の売上は1000万円になる見込みです」といった具体的な数値を提示してくれます。ビジネスの現場で、AIによるこれらの予測値は、意思決定の重要な根拠となり得ます。

しかし、AIが出す予測値は本当に「その数字ぴったり」になるのでしょうか? 現実には、予測が外れることも少なくありません。天気予報が外れたり、売上予測が実際と異なったりするのは、多くの方が経験されていることでしょう。

なぜAIの予測は外れることがあるのでしょうか。それは、AIが分析に使うデータが「全体のデータのごく一部」だったり、データの収集過程や対象に「ばらつき」が存在したりするからです。このような不確実性がある中で、AIが出す「一つの数字」としての予測は、あくまで最も可能性が高いと考えられる「目安」なのです。

私たちは、AIの予測結果をビジネスでより効果的に活用するために、「その予測がどれだけ確かか」「どのくらいの幅に収まる可能性があるのか」を知る必要があります。ここで役立つのが、統計学の「点推定(てんすいてい)」と「区間推定(くかんすいてい)」という考え方です。難しい数式は使いませんので、ご安心ください。

AIの予測値は「点推定」の代表例

先ほど例に挙げた、「明日の最高気温は25度」「来月の売上は1000万円」といった、AIが提示する具体的な一つの数字による予測を、統計学では「点推定」と考えることができます。

点推定とは、私たちが本当に知りたい値(例えば、真の平均気温や、未来の真の売上総額といった「母集団」に関する値)を、手元にあるデータ(「標本」)だけを使って、たった一つの数字で「きっとこれくらいだろう」と推測することです。

これは、ダーツの的の中心(真の値)を狙って、一回だけダーツを投げるようなものです。投げたダーツが刺さった一点(予測値)をもって、「的の中心はここだ!」と主張しているイメージです。

点推定は非常に分かりやすく、すぐにビジネスの意思決定に活用できる形(例: 「在庫を100個準備しよう」「この価格で提供しよう」)で示されるため、便利です。しかし、ダーツが一回でど真ん中に刺さる保証がないように、点推定値が真の値とぴったり一致することは稀です。手元のデータに偏りがあったり、たまたま変わったデータが集まったりすれば、予測値は大きく外れる可能性があります。

予測に「幅」を持たせる「区間推定」

そこで登場するのが「区間推定」という考え方です。区間推定では、真に知りたい値が、ある「幅」(区間)のどこかに含まれているだろう、と推測します。さらに、その区間に真の値が含まれている「確からしさ」を一緒に提示します。

例えるなら、ダーツの的の中心を狙うときに、「的の中心はこの〇センチ四方の範囲にあるだろう」と、ある程度の広がり(区間)で示すようなものです。さらに、「この範囲に的の中心が含まれている確率は95%だ」といった「確からしさ」(これを「信頼水準」と呼びます)を添えるのです。

ビジネスの例で考えてみましょう。AIが「来月の売上は1000万円」と点推定で予測したとします。区間推定の考え方を加えると、「来月の売上は、おそらく800万円から1200万円の間になるだろう。そして、この区間に実際の売上高が含まれる確からしさは95%だ」といった形で提示することができます。この「800万円から1200万円」という幅を「信頼区間」と呼びます。

この「信頼区間」を知ることで、単に1000万円という数字だけを見るよりも、予測の不確実性をより具体的に把握できます。例えば、最悪の場合(800万円)、最高の場合(1200万円)を想定したリスク管理や予算策定が可能になります。「最低限これだけは確保できる可能性が高いライン」が見えてくるため、より堅実な意思決定に繋がるのです。

信頼区間は「確からしさ」の目安

信頼区間は、その「確からしさ」を信頼水準(通常は95%や99%などが使われます)で示します。例えば「95%信頼区間」とは、「同じ方法で100回計算を繰り返したら、そのうちおよそ95回は、計算された区間の中に私たちが真に知りたい値が含まれているだろう」という意味合いです。

これは、「この信頼区間に、真の値が95%の確率で存在する」という意味ではありません(統計学的には少し解釈が異なります)。あくまで、「この信頼区間を計算する方法は、真の値を含む区間を100回のうち95回作り出す能力がある」という方法の信頼性を示すものです。

難しい違いですが、ビジネスにおいて重要なのは、「AIが出した予測値(点推定値)は、あくまで最も可能性の高い一点であり、実際の値は信頼区間という幅の中に収まる可能性が高い」と理解することです。そして、その幅の広さや、設定された信頼水準から、予測の不確実性を読み取ることです。

まとめ:予測の不確実性を理解し、賢くAIを活用するために

AIが提示する「明日の最高気温」「来月の売上」「顧客の購買確率」といった具体的な数字は、統計学の点推定という考え方に基づいています。これは分かりやすく便利ですが、データに不確実性が伴う以上、常に外れる可能性があります。

AIの予測をより深く理解し、ビジネスに活かすためには、点推定値だけでなく、予測が「どのくらいの幅に収まる可能性があるか」を示す区間推定の考え方が重要です。特に信頼区間は、予測の不確実性を具体的な「幅」と「確からしさ(信頼水準)」で示してくれるため、リスクを考慮した、より賢い意思決定をサポートしてくれます。

もしAIの予測結果を目にする機会があれば、ぜひ「この予測は点推定値だろうか?」「区間推定値は示されているだろうか?」といった視点を持ってみてください。そして、区間推定値が示されている場合は、その「幅」と「信頼水準」を確認し、予測の確かさを評価する習慣をつけると、AI活用の幅がさらに広がるはずです。

数学が苦手でも、点推定と区間推定という二つの概念を理解するだけで、AIの予測結果から得られる情報の質を高めることができます。AIを単なる「魔法の箱」としてではなく、その振る舞いの背景にある統計的な考え方を少しでも知ることで、AIとの付き合い方がより豊かになることを願っています。