数学が苦手でもわかる!AIが扱うデータの「型」を知る:適切な分析のための入門
AIをビジネスに活用する上で、「データ」は最も大切な要素です。AIはデータから学び、パターンを見つけ、予測や分類を行います。しかし、どんなデータでも同じように扱えるわけではありません。データにはいくつかの「型(種類)」があり、その型によって適した分析方法やAIの活用方法が異なります。
数学や統計が苦手だと感じていても大丈夫です。この記事では、難しい数式を使わずに、ビジネスの現場でAIやデータ分析に携わる方が知っておくべき「データの型」の基礎と考え方をご紹介します。データの型を理解することで、AIから得られる情報をより深く理解し、ビジネスにおける意思決定に役立てることができるようになります。
なぜデータの「型」を知る必要があるのか?
私たちが普段目にするデータは、数値や言葉など様々な形で存在します。例えば、顧客の年齢、性別、購入金額、満足度、住んでいる地域などです。これらのデータは一見同じ「データ」ですが、それぞれ性質が異なります。
- 「年齢」や「購入金額」は数値で、足したり引いたり、平均を求めたりできます。
- 「性別」や「住んでいる地域」は言葉で、数を数えることはできますが、平均を求めても意味がありません。
- 「満足度(高/中/低)」は順序がありますが、高と中の差が、中と低の差と同じとは限りません。
AIや統計的な分析手法は、このデータの性質(型)に合わせて設計されています。例えば、数値を扱うのが得意な手法、カテゴリーを扱うのが得意な手法などがあります。データの型を無視して不適切な手法を使ってしまうと、AIによる分析結果が的外れになったり、誤った結論を導いてしまったりする可能性があります。
ビジネスの現場でAIやデータ分析の報告を受ける際、「なぜこの分析手法を選んだのか?」「この結果は本当に信頼できるのか?」といった疑問を持つことがあるかもしれません。データの型に関する基礎知識があれば、そうした疑問の背景にある考え方を理解しやすくなります。
データの主な「型」(尺度)を知る
統計学では、データの性質をいくつかの「尺度(スケール)」に分類します。ビジネスでよく扱うデータを例に、主な尺度を2つに大きく分けてご紹介します。
1. 質的データ(カテゴリカルデータ)
性質や分類を表すデータです。数値そのものに意味はなく、カテゴリー分けや分類に意味があります。
-
名義尺度 (Nominal Scale):
- 単なる名前や区別を表すデータです。カテゴリー間に順序や大小関係はありません。
- 例: 性別(男性/女性)、商品の色(赤/青/黄)、都道府県名、電話番号、社員コード
- 特徴: カテゴリーごとに数を数えること(度数集計)や、最も頻繁に出現するカテゴリー(最頻値)を求めることには意味があります。しかし、平均を求めたり、足し算引き算をしても意味はありません(例:「男性」と「女性」の平均を求めても意味がない)。
-
順序尺度 (Ordinal Scale):
- カテゴリー間に順序やランクがありますが、その間隔に意味はありません。
- 例: 満足度(満足/やや満足/普通/やや不満/不満)、アンケートの評価(5段階評価)、試験の順位(1位/2位/3位)
- 特徴: 順序があるため、中央値や最頻値を求めることに意味があります。しかし、「満足」と「やや満足」の差が、「やや不満」と「不満」の差と同じ「1段階分の差」であると断言することはできません。そのため、平均値を計算して比較するのは適切でない場合があります。
2. 量的データ(数値データ)
数値で表され、量の多寡や間隔に意味があるデータです。
-
間隔尺度 (Interval Scale):
- 数値の大小や差に意味がありますが、比率には意味がありません。絶対的なゼロ地点(ゼロが全くない状態)が存在しません。
- 例: 気温(摂氏/華氏)、西暦、テストの点数(0点でも知識が全くないとは限らない)
- 特徴: 平均、中央値、最頻値、分散、標準偏差などを計算することに意味があります。「今日の気温(20℃)は昨日の気温(10℃)より10℃高い」といった差に意味がありますが、「20℃は10℃の2倍暑い」という比率には意味がありません(温度は絶対的なゼロから測られているわけではないため)。
-
比率尺度 (Ratio Scale):
- 数値の大小、差、そして比率のすべてに意味があるデータです。絶対的なゼロ地点が存在します。
- 例: 売上金額、身長、体重、年齢、商品の在庫数、PCの処理速度
- 特徴: 平均、中央値、最頻値、分散、標準偏差、相関、比率など、あらゆる統計量や演算に意味があります。「売上が2倍になった」「身長が10cm伸びた」「在庫がゼロになった」といった差や比率、絶対的なゼロの概念が成り立ちます。AIが扱う数値データの多くはこの比率尺度です。
データの「型」と適切な分析方法・AI活用の関係
データの型によって、適した統計的な分析方法や、AIモデルへのデータの渡し方が変わってきます。
-
名義尺度・順序尺度(質的データ):
- 分析: 度数集計、クロス集計、最頻値、カテゴリー間の関係性をみる統計手法(例: カイ二乗検定など、記事「数学が苦手でもわかる!AIが「はい/いいえ」の関係性を分析する方法:クロス集計とカイ二乗検定」参照)
- AI活用: AIモデルに入力する際は、多くの場合、数値データに変換する必要があります(例:性別を「男性=0, 女性=1」のように数値に置き換える、あるいは「One-Hotエンコーディング」という手法で「男性であるか(Yes/No)」「女性であるか(Yes/No)」のような複数のYes/Noデータに変換するなど)。AIは変換された数値を基にパターンを学習します。
-
間隔尺度・比率尺度(量的データ):
- 分析: 平均、中央値、分散、標準偏差、相関分析、回帰分析(例: 記事「数学が苦手でもわかる!AIによる「予測」の裏側:回帰分析とは」参照)、時系列分析など、幅広い統計的手法が使えます。ヒストグラムや散布図などでデータの分布や関係性を可視化することも有効です。
- AI活用: 数値データとしてそのままAIモデルに入力できることが多いです。回帰分析を用いた予測や、数値データを基にしたクラスタリング、分類など、多くのAIモデルはこの型のデータを扱います。
ビジネスにおける注意点とAIへの示唆
データの型を理解することは、単に統計の知識としてだけでなく、ビジネスにおけるAI活用を成功させる上で非常に重要です。
- 不適切な分析を避ける: 例えば、顧客アンケートの満足度(順序尺度)を集計する際に、単純に平均値だけを見て判断するのは注意が必要です。極端な評価がある場合に平均値が実態と離れてしまうことがあります。中央値や各段階の割合(度数分布)を確認する方が、顧客の実感をより正確に捉えられる場合があります。
- AIモデルの入力データを理解する: 多くのAIモデルは数値データを好みます。性別や地域といった質的データをAIに学習させるためには、適切な方法で数値に変換する必要があります。この変換方法を理解していると、AIモデルの振る舞いや限界をより深く理解できます。
- AIの結果を正しく解釈する: AIが算出した予測値や分類結果が、元のデータのどの「型」に基づいているのかを意識することで、その結果が持つ意味合いや限界を適切に判断できます。例えば、AIが「来月の売上予測(比率尺度)」を出したのか、「顧客が購入するかどうか(名義尺度)」を予測したのかで、結果の解釈や次に取るべきアクションが変わってきます。
まとめ
AIがデータから学習し、ビジネスに役立つインサイトを生み出すためには、その元となるデータの性質を理解することが欠かせません。データには大きく分けて質的データ(名義尺度、順序尺度)と量的データ(間隔尺度、比率尺度)があり、それぞれで適切な分析方法やAIへのデータの渡し方が異なります。
- 質的データ: カテゴリーや順序に意味があり、数えたり分類したりするのに適しています。AIでは数値に変換して使うことが多いです。
- 量的データ: 数値の大小や差、比率に意味があり、平均や分散など様々な計算が可能です。AIはそのまま数値として扱うことが多いです。
難しい数式を知らなくても、「このデータは数としてそのまま扱えるかな?」「これは順序だけかな?」「これはただの名前かな?」とデータの型を意識するだけで、AIやデータ分析の結果に対する理解度がぐっと深まります。
AIをビジネスの味方にするための一歩として、ぜひ目の前のデータがどの「型」に当てはまるのかを考えてみてください。それが、より正確な分析と、ビジネスにおけるより良い意思決定につながるはずです。